( 生き、生き。 )

Careers & Recruitment

プロジェクト参加者募集

“ないものはない”島を、編集するということ

連載・海士町の視点 vol.01

2026.10.15

暮らし

海士町を訪れる人々のそれぞれの視点から、海士町の自然・文化はどのように見えるのか。この連載では、実際に海士町に滞在した方々に、独自の視点で捉えた海士町の魅力について寄稿いただきます。初回は、本サイトの制作・コピーライティングを担当した編集者の角田貴広さん。

海士町をはじめて訪れてから3年が経った。Entôが中心となって制作した『自然 人間 営み ─ 隠岐諸島・海士町の豊かさを巡る24のストーリー』の編集を担当させていただき、取材のために訪れたのが最初で、その後も取材やリサーチ、本サイトの制作のために、毎年数回ずつこの島を訪れるようになった。私にとっての海士町はもはや旅先ではなく、ひとつの故郷に近い存在になりかけている。

この島のいいところは、いろんなことが自然に委ねられていることだと思う。自然というのは文字通り「nature」そのものでもあるが、自然体というのか、振る舞い・態度のようなものに近い意味である。そして、それは編集という仕事をする上では、ある意味でとても難しいものである。

たとえば、決められた時間のなかで最大限の成果をあげようと、あれこれ準備をして島へ行く。現地での取材もできる限り事前に調整をしてもらう。と思ったら、実際には取材予定日の朝に直接電話をして取材の打診をしていたりする。「今から行って大丈夫だって!」「予定にはなかったけど、〇〇さんが来るって!」そんな会話がどんどん生まれてくる。結果として、予定にはなかったたくさんの出会いや会話が生まれ、島に来る前には想像していなかったものができたりする。

海士町へ行くのにも、当然ながら時間がかかる。東京からだと、飛行機を乗り継いで、そのあと船に乗ることになる。だから、効率だけを考えるとオンラインでできることならオンラインでやるのがいい。にもかかわらず、気軽に島へ呼んでくれる。大事な部分を決めるための打ち合わせは会ってするのがいいと言う。数時間の議論のために、2泊3日で島へ向かったこともある。

仕事を仕事だけと捉えて、スケジュールに則って完成を目指すという意味では、海士町の仕事はとても難しい。でも、仕事は仕事として独立しているのではなく、そこには生活があり、自然の営みがあり、長く続いてきた文化や関わりがあり、そのすべてがつながり、循環して今の海士町がある。だから、そのなかに飛び込むことで、見えてくるものがある。仕事という概念を取っ払って、一人の人間として、この島のあらゆる空気にさらされてみる。実はそういう時間こそ編集という役割の根幹の部分で欠かせないものであり、その結果としてこの場所でしか見えない景色、生まれない表現が出てくるのだと思う。

まだ6回しか島に行ったことがないので、実際に何年も何十年も住んでいる、関わっている方々と比べると、私はよそ者かもしれないけれど、この島にはそんなよそ者を何食わぬ顔で自然と受け入れる空気があり、冒頭でも書いたように私にとって海士町で過ごす時間はもはや旅ではなく生活に等しいものになっている。(というよりも、何度か訪れるうちに、ようやくこの島での生活の感覚の片鱗がわかってきたのかもしれない。)

今年の夏の終わりに訪れた際、どうしても釣りがやりたくて、滞在中の午前いっぱいを使って釣りをした。近くで釣りをしている大学生にいろんなことを教えてもらったり、その後訪れたランチで、その大学生の里親だという人を紹介してもらったり、そんなつながりが当たり前に生まれる。

島から帰る日、フェリーで隣の隠岐の島町に着いてから飛行機の搭乗まで6時間の隙間時間があった。隠岐の島町のことはまだ何ひとつ知らないのだが、私たちはふと釣りがしたくなって、フェリー乗り場のすぐ近くにあるホテルのインフォメーション・センターへ駆け込み、気がつけば釣竿を借りていた。6時間という乗り継ぎ時間、飽きることなく私は海を眺めながら釣りをすることになった。「ないものはない」とはよく言ったものだ。楽しみ方はそうやって自分で探すものなのだ。

「ないものはない」というこの島のスローガンには、二つの意味がある。「すべてのものがある」という意味と、「ないものはないんだから仕方がない」という意味である。さらに言えば、それは「ないなら自分でつくればいい」という教えでもある。

編集という仕事にも、似た側面があると思う。なにかを編集するということは、ゼロから表現をクリエイトするということではなく、そこにあるものを「集めて、編み直す」という行為である。だからこそ、どれだけ多くのインプットをして、それらをいかに削ぎ落とし、あるべき形に整えていくのか、という能力が問われる。しかし、かといって整理をしているだけかと言われればそんなことはない。そこにあるものを紡いでいくなかで適切な表現を探し、必要となればそこに新しく言葉をつくる。デザインを載せていく。「ないものはない」状況で、「ないなら自分でつくる」仕事だ。そして、なにより自然に身を委ねる時間を楽しむための仕事なのかもしれない。

この島には、そんな思想を体現するかのような人たちがたくさんいる。途絶えてしまう文化をどうにか継承しようとする人、ここにはない新しい事業をおこす人、変わらないこの地の自然を守り続ける人。この島では、誰もが編集のプロフェッショナルなのかもしれない。

角田貴広:編集・執筆

1991年、大阪生まれ。東京大学医学部健康総合化学科卒業、同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」を経て、フリーランスに。メディア・雑誌での編集・執筆をはじめ、コピーライター、クリエイティブ・ディレクターとして新規事業の立ち上げや企業のリブランディングなどに関わるほか、自費出版本も複数刊行。“役に立たないこと”をテーマにした自主企画「hia」を続けている。

文・写真:角田貴広

共有する

一覧へ戻る
Careers & Recruitment 募集中のプロジェクトはこちら Contact 気軽に相談してみる