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地域とゲストの間に立つ、誠実なプロフェッショナル組織を目指して

連載・観光の可能性を考える vol.02

株式会社島ファクトリー共同代表・藤尾ことみ

2026.09.10

Interview

海士町の観光を支えるキーパーソンたちとともに、観光の可能性について考える本連載。今回お話を伺うのは、海士町で“小さな洗濯屋さん”を名乗りながら、隠岐諸島全体の観光に多角的に関わる株式会社島ファクトリー。株式会社海士の現代表である青山敦士さんが2013年に立ち上げ、Entôのリネン類をはじめとするリネンサプライ事業、自社運営する「B&Bあとど」の宿泊事業、旅に関わるあらゆるお手伝いをするコンシェルジュ事業、さらには隠岐地域のさまざまな企業との連携を通じて、隠岐全体における観光の魅力化に取り組んでいます。

そんな島ファクトリーは2024年に青山さんから肥留川さん、藤尾さんへと代表をバトンタッチし、さらなる観光事業の可能性を模索し始めました。ホテル運営に欠かせない清潔さを支えるクリンネス業務をはじめ、旅にまつわるさまざまな事業に取り組む島ファクトリーは、これからどんな企業を目指すのか。共同代表のお一人である藤尾ことみさんにお話を伺いました。

――島ファクトリー代表に就任するまでの経緯

大学3年生で進路に悩み、単位を取る目的でインターンシップ先を探して偶然見つけたのが海士町でした。選考が進む途中で離島だと知って最初はイヤイヤ準備をしていたくらいでしたが(笑)、実際にCAS凍結センターや船渡来流亭など、いろんなところで働いているうちにどうしても海士町に住みたいと思うようになりました。親や大学とも何度も話し合いながら、大阪の大学に週1回通いつつ海士町で働くという暮らしを1年間続け、卒業と同時に観光協会に就職しました。そして、2年間勤めた後、海士町だけではなく、隠岐4島(島前・島後を含む諸島全体)に関わりたくて、関連会社である島ファクトリーに転籍をしました。Entô立ち上げの時期でもあり、島に来る客層もガラッと変わった印象がありました。

当時は青山さんが株式会社海士と島ファクトリーの代表を兼任していて、外部からは同じ会社だと思われることも多かったのですが、私としてはそれぞれがやっていることも、地域から求められているものも違っていて、一緒だと思われることに違和感があって。青山さんにその思いを伝え続けていたところ、「じゃあ、経営興味ある?」というふうに声をかけていただき、経営に携わるようになりました。

※藤尾さんのこれまでに関する詳細はこちら:​​https://note.com/shima_factory/n/n0cd0cd2cfa58

――なぜ、海士町だったのか

入社1年目が新型コロナの年だったために思ったように仕事ができなくて、その後も同世代が都会で働いているのを見て、悩むことがありました。でも、島の人たちはみんないきいきしていて、優しくて。私はもともと明るいタイプではなかったのですが、それを忘れさせてくれるくらい面白い人ばかりでした。

もうひとつ、海士町は移住者が多くて、地方創生の成功例と言われることが多いのですが、そこに対して疑問がありました。実際にはキャリアを積んだ方が移住するケースが多くて、私のようにやる気と元気はあってもスキルのない人は、なかなか来れないんじゃないかと感じていたんです。それなら、ただの大学生だった自分がこの場所に移住して認められたい。なにもなくても移住できるんだということを証明したい、という思いがありました。

――共同代表それぞれの役割

誰よりも思いだけはあると感じてはいたものの、実際に経営に携わるのはもっと先のことだと思っていました。経験と勉強のために東京に出向して半年が経ったころ、青山さんから「そろそろ、どう?」「一人じゃなくて(一緒に働いてきた)肥留川と一緒に」と言われて。自分だけだったらまだ早いと断っていたと思うのですが、肥留川さんがいるなら、と安心して受けた部分は正直ありました。

肥留川さんとは得意不得意も性格も正反対で、ぶつかることも多いのですが、安心して背中を預けさせてもらっている感覚があります。彼は戦略設計や未来を描く力のある方で、私はむしろ現実主義で、目の前のことと向き合うタイプ。今でも現場に入って仕事をすることもあります。

――島ファクトリーらしさとは?

働いている私たちだけが豊かな暮らしを送れるのではなくて、地域のみなさんも同じように豊かであれるための会社だと思います。だからこそ、自分たちだけが利益を得るようなあり方は目指していません。もちろん、株式会社として利益を出す必要はありますが、必要以上にお金を貯めて大きな会社にしていくわけではなくて、必要な人や設備に投資をして、地域に循環することを目指しています。

幅広い事業をやっているのも、なんでもやっているというわけではなくて、地域で必要とされていながらも誰もやってこなかったことを意識的にやってきたからです。地域のインフラになるものを支え続ける会社であり、これからも地域から必要とされる以上は既存の事業をやり続けるだろうし、新しい事業が増えていく可能性もあると思います。

――島ファクトリーが目指す場所

隠岐ってわかりづらいし、物理的にもハードルが高い場所にあるので、せっかく行こうと思っても離脱してしまうゲストが多くて、すごくもったいない。だからこそ、旅前から船の予約までノンストップでできるとか、コンシェルジュが親身になって相談に乗ってくれるとか、ハンデを強みに変えるということが島ファクトリーとしてやりたいことです。

もうひとつ、旅行業や旅行前の相談や手配などを担う“旅前”業務には言葉を選ばずに言うと地味な作業が多くて、収益化しづらい領域だと思われがちです。きちんと行程を組んで満足してもらうという仕事はじつはとても大変なことで、この旅前の業務の価値をあげたいとも思っています。旅前のプロとしての自覚がある人にしかできない仕事をしていきたいし、そういう意識を持ったプロの旅前チームを育てていきたい。もちろんリネンや宿の運営など、それぞれの分野で同じようにプロを育てていきます。

さらに、地域から求められるからやっているのではなくて、その一歩上を目指す。リネンの清掃において海や環境に配慮したり、宿を起点にエリア一帯を盛り上げたり。そんなことをみんなが考えられる会社でありたいと思います。

――DMO / 隠岐4島との連携の可能性

隠岐全体でいろんな事業者さんがいらっしゃるなかで、DMOの示す方向性に沿って、事業者さんが走っていくための旗振り役になりたいとも思います。単なる一事業者にとどまらず、地域基盤を支える存在に近い立ち位置を目指すというのも島ファクトリーのこれからのあり方かもしれません。

――どんな組織にしていきたいか

大都会で働くとか、大企業で働くのがすごいという風潮は少なからずあると思います。自分自身、海士町に来るまで何者でもないことに悩んできたわけですが、そのどちらでもないこの場所でも、劣らないくらいのスキルや熱量を持っている人が育っていく、そんな会社でありたいと思います。

――島ファクトリーが求める人物像

一緒に働いている人たちの顔を思い浮かべると、誠実さという言葉が浮かびます。それは地域から求められていることでもあるし、私自身のモットーでもあります。地域の事業者さんやゲストとの関係性の間に入るのが私たちの役割なので、その関係性はとても大切ですし、些細なコミュニケーションひとつで印象も変わってくる。手を抜こうと思えば抜ける部分だからこそ、関わる誰かのことを考えて手を抜かずに仕事をできるかどうか。それが一番大切なことかもしれません。

藤尾ことみ:株式会社島ファクトリー 共同代表

1997年、兵庫県生まれ。大学在学時に海士町に出会う。離島ワーホリでの体験から海士で働くことをもっと考えたいと思い、週5日海士、週1日大阪の大学という生活を行う。その後、新卒で海士町観光協会に就職。海中展望船あまんぼう、離島ワーホリの受入れ、島らしいツアー開発などを行う。2021年に島ファクトリーへ転籍し、隠岐4島の受入れ窓口一本化などを実施。2024年に東武トップツアーズへの半年間出向を経て、島ファクトリー代表取締役に就任。フィールドを海士から隠岐へ。隠岐4島の個性を生かしながら、地域の重なりをつくりあげる水のような存在であることが目標。

取材 / 執筆:角田貴広
撮影:樗木新

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