海士町に来たきっかけ
私はずっとホテルでしか働いたことがなくて、大阪の1,000室規模のホテルで4年弱ほど働いて、そこから海士町に移住してきました。小さな島で勉強したいという気持ちがあり、もともと興味があったんです。
ちょうど転職活動をしている時期に、ご縁があって海士町のホテル、Entôのことを知り翌月には就職が決まっていました。かなり運命的な流れでした。 本当は淡路島に移住したかったんですが、一度ちゃんと実家から離れて一人で自立した生活をしてみようと思いました。「泣いても喚いてもすぐ帰れない場所」を探していて、それでこの離島に決めた感じです。
来てみると、会社を4つも5つも掛け持ちしている人や、海でオンライン会議をしている人もいて、とにかく「常識を覆してくる」ような人が多くて驚きました。「いい高校、いい大学、大きな会社」が良い人生だと思っていた私は、そういう人たちに出会って、価値観が大きく変わっていきました。

研修に手を挙げた理由
移住してきた時点で、現場業務はやり尽くしたという感覚があったんです。淡路島で自分の宿をやりたいので、総務も経理も経営も人事も、チームマネジメントも支配人経験も、必要じゃないものがないと思っていて。悩みましたが挑戦することにしました。
リーダーシッププログラムの中身
私たちのコースは経営マネジメントコースで、印象に残っているのは『Delta Studio』というリーダーシップ研修会社のプログラムです。各チームのマネージャーやリーダー的立場の人が持つべき精神面・知識面を学ぶ内容で、グループワーク中心でした。
経営者向けコースは25人くらいから始まって、社長クラスの方々と同じクラスで受けました。 株式会社海士の青山さんなど、観光を牽引されている方々が参加されていました。普段話せないような方々とも交流できたことが、内容以上に大きな学びでした。
逃げ場のない360度サーベイ
まず部下や上司から評価を受けます。「このマネージャーについていきたいですか」という質問にパーセンテージで結果が出て、良い評価も厳しい評価も1枚の紙に通知表のような形でまとめられていました。それをもとに、次の半期でどう改善するかをチームで話し合いました。
私には「できるという期待を持ってもらう前に、仕事を振ってもらえない」という部下からの声がありました。誰が書いたのかは全くわかりません。中には「ついていきたくない」というような厳しい言葉を受けた人もいて、研修が終わったあとも話足りず、参加者が駐車場で立ち話をしていたのが印象的でした。

「最高・最低のリーダー像」で価値観が揺らぐ
2回目の研修では、「これまで出会った最高・最低のリーダー像」を書き出して、チームで共有する時間がありました。
前職の話も含めて、それぞれが思う「最高」と「最低」が全然違っていて、自分が最高だと思っていた基準さえ疑い始めるような体験でした。たとえば「利益のことしか考えないトップは良くないのでは」という意見に対して、「従業員の給料を払うためにはトップがそれを考える必要がある」という反論も出て、正しいと思っていたことに新しい視点が加わりました。
以前は「全部自分が責任を負う」というタイプのリーダーになりたいと思っていたんですが、それだとチームメンバーが育たない、と指摘されて。ただ、部下が失敗しても守ってあげたいという気持ち自体は否定したくありませんでした。
また、「利益や売上もマネージャーが考えるべきこと」というアドバイスも取り入れるようになりました。それまではそこの部分は上が考えるものだと思っていたんです。
「自分についてこい」を手放すまで
360度サーベイの結果を受け取ってから、次の研修までの期間に、チームに直接「何が不満か」「何を求めているか」を素直に聞くようにしました。
当時の私はサブマネージャーで、上に一人マネージャーがいました。当時はマネージャーができていないことを自分が補うべきだ、という考え方に偏りすぎていてチーム全体に対して「自分が何をできているか」という視点が、完全に抜けていたんです。
マネージャーの手助けはできていても、チームメンバーへの手助けはできていない。その単純な事実に気づかされました。
以前の私は「自分について来い」と引っ張るタイプのリーダーでありたいと思っていました。でも、それではチームメンバーが育たない。むしろ必要なのは、一人ひとりの声を聞いて、その人たちが何を求めているかを理解し、任せることだったんです。
引っ張るリーダーから引き出すリーダーへ。その転換を言葉にできたのは、あの360度サーベイと「最高・最低のリーダー像」のワークがあったからこそだと思います。

数字を知らずに、現場には立てない
リーダーシップ研修と並行して、マーケティング会社・刀による講座も受けました。この研修によって、より数字を意識するようになったと思います。
具体的に言うと、「経営者だけが会社の利益や売上を見ればいい」という考え方から、「宿泊事業部の売上は自分ごと」という意識に変わりました。
例えば台風で船が止まると、部屋が埋まっていた場合は1日で50万〜100万円ほどの損失が出ます。島だからこそのリスクを数字で実感したことで、どのプランや価格設定、ブランディングを見直すべきかを考えるきっかけになりました。今は冬のプランを担当していて、読書プランやセルフウェルビーイングプランの需要を、マーケティングチームと一緒に検討しています。
マーケティング講座では最年少だったこともあり、用語が理解できないところから始まりましたが、それを恥じずに曝け出して参加しました。
最後の発表会では、ペアを組んで一緒にプランを練りました。私たちはホテルでの「プロポーズプラン」を考えて、PDCAを回す想定まで作りました。前日は2時頃まで、作業していました(笑)。
研修を終えて
これまでリスクを取ることから逃げてきたところがあったんですが、「挑戦してもいいんだ」と自分に言えるようになりました。宿という箱を作ること自体は誰にでもできるけれど、売上を作って従業員に給料を払い続けることが本当の難しさです。それでも「失敗してもいい」と思えるようになったのが、この研修での一番の収穫だったと思います。
これも周りの先輩方が教えてくれたことです。自分が未熟なことはみんなわかっていて、それでも誰も笑わない環境で、学んだことに挑戦してみたいと思えたら挑戦していい、失敗してもいい、というマインドが根付いた感じです。
この研修で、大人になって久しぶりに泣きました。現場しか経験がなかったので、マーケティングの知識が足りていないのは自分でわかっていて飛び込んだんですが、想像以上に難しくて。現場との両立も苦しかったです。それでも、飛び込んでよかったと思っています。
