
このプログラムで身につく「3つの力」
海士町では、地域の観光をリードする「高度観光人材」に求められる力を、6つのスキルとして定義しています。このプログラムでは、そのなかでも特に重要な3つの領域を集中的に学び、実践します。
・観光地マーケティング:地域の魅力を体験価値に変え、消費額を高め、ブランドを育てる力
・対話と合意形成:立場の異なる人たちを巻き込み、地域の物語を語る力
・事業・運営マネジメント:収支計画を描き、事業を持続させる力

2つのコースの違い
基礎コースは「自分の手で企画を生み出し、動かす力」を、経営マネジメントコースは「戦略を実行に移し、人と組織を育てながら事業を続けていく力」を磨くコースです。

【両コース共通】島の観光を一緒に考える
ここからは、半年間のカリキュラムを具体的にご紹介します。まずは両コースの受講生がともに学ぶ講座から。
観光事業者全体ミーティング
海士町の観光戦略、目標と現在地を確認するところから半年間がはじまります。各事業所がビジョンや計画を共有し、「海士の観光」をめぐる問いについて事業の垣根を越えてディスカッションします。
変化とプロセスを描くワークショップ
歴史的ベストセラー『不都合な真実』を日本に広めた環境のスペシャリストであり、現在も全国各地で「未来のまちづくり」を指導する枝廣淳子氏によるワークショップです。
目指す未来から逆算する「バックキャスティング」、因果関係をループ図で可視化する「システム思考」、短期から長期の成果をつなぐ「変化の理論(Theory of Change)」を用いて、自分の事業や地域に起こしたい変化を、実効性のあるアクションプランへと落とし込みます。メンターの伴走支援も受けながら進めます。
コミュニケーションと合意形成(基礎コースは必修、経営マネジメントコースは選択)
「聴く・話す・伝える」の基本を体験的に磨き、立場や意見の異なる人たちのあいだで「同意」ではなく「合意」をつくる手法を実践的に学ぶ枝廣淳子氏による講座です。
観光学:地域観光の先駆者たちに学ぶ(選択)
「際立った観光名所がない地域で、どうやって国内外から人を呼んできたのか」
その問いに、実践者本人が答える全6回の連続講座です。
・松場忠氏:石見銀山・大森町を「生活観光」の町へと変えた群言堂の取り組みについて、1泊2日の現地視察で体感するプログラム
・山田拓氏:岐阜県飛騨市で、見過ごされていた地域資源を磨き年間5,000人近いゲストを迎えるまでの道のりを学ぶカリキュラム
・青山敦士氏:20年以上にわたり海士町の観光に関わり、宿泊施設Entôやリネン工場を立ち上げてきた舞台裏を聞く講座
・井口智裕氏:「雪国観光圏」のエリアブランディングと、新潟県にあるホテル「Ryugon」再生のプロセスから、地域全体で価値を高める方法を学ぶ講座
・ブラッド・トウル氏:地域住民とともにターゲットを絞り込み、熊野古道を世界から選ばれる目的地へと導いた経験から学ぶプログラム
・原忠之氏:ホスピタリティ教育の名門・セントラル・フロリダ大学の教授から、観光学のフレームワークと世界の観光の潮流を学ぶ総まとめの回
地域資源探求ゼミ:島を「語れる」人になる(選択)
地域資源の歴史や今の姿をさまざまな角度から調べ、現地での対話を通じて、その土地ならではの物語を紡ぐ手法を学ぶゼミです。地元の人たちと信頼関係を築きながら、資料だけでは見えない想いや背景を聞き取り、ゲストの心に届くストーリーとして伝えていきます。

【基礎コース】戦略を学び、企画を形にする
マーケティングブートキャンプ
マーケティングの精鋭集団・株式会社刀による全6回のプログラムです。ゲストの本音をつかみ、それに響く体験やブランドをつくるための考え方を、実践を通して身につけます。最終回では、受講生自身がブランド戦略を発表します。
課題解決講座
アイデアを無駄なく具体的な企画書へ落とし込むプロセスと、PL(損益計算書)の基本構造を理解したうえでの収支計画の立て方を学ぶ、集治隆太郎氏による講座。「やりたい」を「続けられる事業」にするための土台です。

【経営マネジメントコース】戦略を成果に変え、組織を育てる
マーケティングゼミ
昨年度に考えたブランド戦略や体験施策を、実際に動かしながら改善していく実践プログラムです。株式会社刀の講師陣が各事業に伴走し、相談やプランの見直しを重ねながら、試して改善するサイクルをスピーディに回します。最後にその過程を振り返って整理することで、自分たちならではのブランドづくりのノウハウを確立します。
組織開発・マネジメント講座
組織目標や戦略方針から具体的なアクションを策定する力や、メンバーへの理解を深めたうえでの最適な役割分担・育成計画、組織設計の手法を学ぶ、株式会社Evemによる講座です。さらに、メンバーと事業の双方の成長を後押しする、納得感の高い評価設計まで実践的に習得します。
ビジョンとファイナンス
抽象度の高い経営理念やビジョンをPL・BSといった財務構造へ落とし込み、「想い」と「数字」を両立させる手法を学ぶ、原田英治氏・古田秘馬氏による講座です。地域での事業立ち上げに必要な資金調達や、多様な関係者を巻き込む持続可能な組織の設計も扱い、昨年度に生まれた実際の事業構想をケーススタディにしたトークセッションを通じて、理念を日々の運営に接続する力を養います。

半年間の流れ
研修のスタートは10月。島の観光事業者が集まるミーティングで、海士町がめざす観光のかたちと、いまの立ち位置を全員で確認するところから始まります。そこから受講生は、自分の職場やチームで「どんな変化を起こしたいか」を考え、12月の中間発表でそれを発表します。残りの3か月で実際に動いてみて、3月の最終発表で半年間の学びと変化を振り返ります。
受講生の声
昨年度に基礎コースを受講した、宿泊施設「Entô」の辰井さんは、現場の仕事と両立しながら半年間を走り抜けました。部下や上司から評価を受ける360度サーベイを通じて、「自分についてこい」というリーダー像を手放し、一人ひとりの声を聞いて任せるスタイルへと変わっていったといいます。
▶︎ 辰井さんのインタビューはこちら
結びに
島にいながら、これだけ豪華な講師陣に学べる環境は、海士町ならではの魅力ではないでしょうか。本研修は海士町で暮らし、働く人を対象にしているため、「島で暮らす」ことそのものが学びの入り口になっています。まずは現場で経験を積みながら基礎コースで学び、いずれは経営マネジメントコースで組織を率いる側へ。海士町では、そんなふうに島で段階的にキャリアを重ねていくこともできるのです。
観光を「消費されるもの」ではなく、地域とゲストの双方を豊かにする事業として育てていくために、海士町はこれからも人材教育への投資を続けていきます。島で働き、島で学ぶ。そんなキャリアに興味を持った方は、ぜひ今後の採用情報にもご注目ください。