――島ファクトリー代表に就任した経緯
前職の白井屋ホテルで青山さんと出会い、その場での10分間の立ち話をきっかけに、気がつけば海士町へ移住し、3年が経ちました。もともと白井屋ホテルでも清掃スタッフが仕事に誇りをもって働いてほしいという思いから、アートワークをプリントしたかっこいい制服を作って販売していて、そうした思いも青山さんに伝えていました。海士町でもリネンに関わりたいと思っていたところ、島ファクトリーと業務委託をするかたちでリネン事業の統括をすることになりました。
当時は青山さんが代表を辞めて、長く働いてきた(共同代表の)藤尾さんに島ファクトリーを継がせる予定だったそうですが、「どうせリネンが好きなら、二人で島ファクトリーまるごと預かって、未来をつくってくれないか」と打診をいただきました。経営者になりたいという思いはなく、想像もしていなかったので、最初は無理だろうと思いました。また、会社が決していい状況ではなかったので、それならば新しく会社をつくった方が身軽そうだとも感じたのが正直なところ。でも、半年ほど取引先の方々とも交流をするなかで、この場所があることで回っている人たちが島には少なからずいて、ありがたいと思ってもらえている。これまで培ってきたものを大変そうだからという理由でゼロにしていいものではない、と感じるようになりました。
また、青山さんから「一人じゃできなくても、二人ならできる」と思ってもらえるのなら、代表になることで自分自身も想像していない世界へ行けるんじゃないかと思うようになりました。なにより、リネン工場で見てきた原始的なやり方、昭和の機械があって、みんなでリネンを仕上げている景色をつぶしたくなかった。この景色にこそ価値があって、これを未来の地域に残していきたいと思い、代表を引き受けることになりました。
――共同代表としてのそれぞれの役割
藤尾とは性格も正反対で意見が食い違う部分も多々ありますが、その分補完し合える部分も多いと思います。役割で言うと、未来に向けてどういうものを作りたいか、そこにどのように向かっていくかという部分のリーダーシップを私が担っていて、それに対して今をつくっていく、あらゆる細やかなマネジメントは藤尾が得意とするところです。これまでの経験も含めて彼女は現場力を持っていて、そこは頼りにしています。過去から今を彼女が担い、今から未来を私が担当して、それが組み合わさることで一本の軸として会社が走っているようなイメージです。
――経営者としての視点

自分自身というよりも、現状に対してうまくいかなくてまわりが悔しがっている、ジレンマを抱えている姿を見て、それを変えるためにはどうすればいいか、みんながハッピーになるためにはどうすればいいか、を考えてきました。チームスポーツばかりやってきたし、一番長かったバレーボールではリベロを担当していて、自分が点を取れないなかで一番後ろからチームを引っ張っていく、そういう舵取りの仕方を経験のなかで得てきたのかもしれません。いきなりその経験が経営に転用できているわけではありませんが、つながっている部分はある気がします。
会社のことで言えば、変化はもちろんありますが、目の前のこと、ひと、思いに愚直にぶつかり続けているという点で、これまでとやることことは変わっていません。ただ、目の前のことしか見えていなかったところから、少しずつ見える範囲が広がって、その周辺にあるものまで踏まえて未来のことを考えられるようになってきたのではないかと思います。
――島ファクトリーとはどんな存在か
観光業の川上から川下まで、一気通貫で事業を行っているところが強みだと思います。リネン、清掃などゲストから見えない部分もあれば、ゲストと直接関わり、旅のワクワクを生み出したり、不安を安心に変えるような旅前のコンシェルジュ機能、いかにしてゲストを呼んでくるかというマーケティングまである。体を動かして汗水垂らす部門もあれば、頭の中で汗をかくみたいなところまで幅広く担っていて、だからこそゲストに寄り添えるというのが、島ファクトリーならではの魅力です。
今年12月には、今運営している「B&Bあとど」という宿の2号店を開業し、2つあわせて「あとど」ブランドとして展開を広げていこうとしています。ただの宿泊施設ではなく、訪れる人と暮らす人と宿を営んでいる私たちの3点が交わる必然をつくることで、この場所でしか感じられない魅力をつくっていきたい。そんな新しい取り組みも広げているところです。
――これからの島ファクトリーの存在価値
2030年に向けて「伴走者」というキーワードを掲げています。これはパラリンピックの走者とともに一心同体で歩みながら、道標となるいわゆる伴走者を念頭にしていて、単なるコンサルにはできないような、事業者や地域全体に対して、汗水垂らしながらきちんと成果にコミットするということを目指しています。もちろん自分たちが我慢をするような利他ではなくて、自分たちもあたたかいご飯を食べて、その人たちもあたたかいご飯を食べられる。そういう相互扶助の関係性をつくっていきたい。
2030年の時点で海士町全体での観光消費額を年間10億円と掲げていますが、私たちもその一部をしっかりと担いつつ、この島を訪れてくださる方々のことを思って“しつらえる”という役割に重きを置き、一緒に汗をかき続けることで、自分たちも島の風景をつくっていく存在でありたいなと思います。

――地域との結びつき
Iターンで来てくれる若者も増えてきたなかで、一方では地域にもっとひらいていくことも必要だと感じます。今の規模なら若いメンバーだけでもあったかい雰囲気はつくれますが、より大きな規模を目指したときに、地域とのバランスというか、島に長く住んでいる方たちが働いていることでしか生まれないあったかい雰囲気があるはず。働く方の年齢や属性で具体的に分けるわけではありませんが、若いIターンがいる一方で、島の人たちも当たり前にいる会社になりたい。そのための制度や報酬も含めて、会社としての基盤をつくっていきたいと考えています。
――リネン工場の可能性と未来

松江などに洗濯を委託している宿も多くありますが、隠岐4島でリネンが自活できることが重要だと考えています。そのために、当初は一番大きな島に工場を集約し、そこですべてを担うというのが効率的だと考えていました。でも、今は海士の工場で培ってきた思想をもとにこの場所でできるかたちを最大化した先で、小さくてもいいからその支社工場を他の島にもつくっていきたい。海士町になにかあれば他でも対応するなど、エリア全体での持久力、レジリエンスが一番高い状態を目指しています。
その大前提として、この場所で培ってきたノウハウや、人や環境に対する価値観が引き継がれていく必要があります。自分たちだけが綺麗なものを使えればいいのではなく、使ったもののその先にもきちんと意識を向ける。現在も蒸気循環設備の導入や、省エネのボイラーの設備投資、洗剤自体の変更、使用量の減少など、できることに取り組んでいますし、将来的には、排熱や排水を利用して、本来島では育たないフルーツを育てたり、淡水魚の養殖をしてみたいと考えています。
