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株海士 / Entôが描く“豊さを巡らせる”観光戦略の未来図

連載・観光の可能性を考える vol.03

株式会社海士代表・青山敦士

2026.09.30

Interview

海士町の観光を支えるキーパーソンたちとともに、観光の可能性について考える本連載。今回お話を伺うのは、株式会社海士代表の青山敦士さんです。

株式会社海士は2020年に港のテナントである島じゃ常識商店・船渡来流亭の運営を開始。翌年2021年には「旅をきっかけに、豊かさを巡らせる。」というミッションを掲げ、旧マリンポートホテル海士をリノベーションする形で“泊まれるジオパーク拠点施設”としてEntôを開業しました。

海士町の観光を支える重要な役割を担ってきた株式会社海士。これまでの5年を踏まえて、これから先の5年をどう捉え、どんな戦略を描くのでしょうか。

――開業から5年が経ったEntôの現在地

開業以来建築やデザインの独自性に注目いただくことも多く、またホテルを超えた地域との関係性や、地域全体への波及といった部分でも評価をいただいたと思います。働く側としても、ただホテルで働くのではなく、地域における宿の役割を考えてきましたし、一定の手応えと定量的な成果が出せていると感じます。

これからも成果を伸ばしていくのはもちろんのこと、それに加えて、地域の魅力により深くアクセスしてもらえる滞在体験を考えるなど、旅のあり方そのものをこの島らしいものに進化させていくホテルの可能性について議論をしています。

――「豊かさを巡らせる」という実感

今年5月には株式会社海士として、保々見地区でつくる「海士乃塩」の事業継承をさせていただきました。この写真は地区の方を招いて、工場見学とバーベキューをした際の一枚です。最近では民間・行政入り混じっての取り組くが増えたりしたり、多様なメンバーによる取り組みが増えてきた地区でもあり、この日も老若男女たくさんの方が集まり、なにかが巡っている実感があったことを鮮明に覚えています。これからはゲストも含めて、この場所でさらなる営みが生まれていく未来をつくっていきたいと感じた瞬間でした。

――定量的な成果から見る

今年はじめて株式会社海士の売り上げがどのように使われているかを図示した「経済成分表」を作成し、これまでの活動を定量的に可視化しました。この図がその一部抜粋ですが、この5年間で16億円以上の売上を出し、そのうち約7割を地域に落とすことができたことがわかります。

経営観点では利益を追求しがちですが、地域全体まで見据えると、原資としてある程度の売上規模も必要です。売上にあわせて雇用数も増え、そこから家族が増えて島に定住する方もおり、実際にこれらの数字も豊さが巡っている一つの証左にもなっていると感じます。

――世界の観光市場を踏まえて

世界情勢が不安定ななかで、純粋な観光市場のリスクはこれからも変動が激しいと感じています。どのような情勢であっても、本能的に旅がしたい、遠くへ行きたいという需要に対して、きちんと応えられる場所であれるかはこれからの市場において重要になるはずです。

また、この島らしい滞在のあり方を考えると、短時間では島の魅力を味わいきれないはずで、できれば3泊以上していただけるようなゲストを増やしていきたい。そのために長期滞在が得意な方が多いインバウンドの比率を上げていきたいですし、海外からのゲストが一定層増えることで、ゲスト全体に良い影響があるはずだと思います。もちろん、世界を意識し続けることで、自分たちの目線を下げないという狙いもあります。

――株式会社海士の5つの役割

株式会社海士として、地球の裏側まで「海士町」の名前を轟かせたいという思いがあり、そのためにできることをつねに考えています。以前から交流させてもらっているstapleさんが、地域における自社の役割を「高さと広がり」をもって示されており、その考え方を自社に落とし込む形で株式会社海士の理想的な役割を図示したものになります。具体的には、価値の天井を引き上げる、つまり「高みを出す(①)」ということと、地域に対して文化や風土、経済まで含めて「はりめぐらせる(②)」ということが重要だと考えており、とくにその両方を実現できているホテルは多くないように思います。また、株式会社海士としてはまだ本格的に取り組めていないのですが、地域開発(③)も不可欠な役割です。さらに、その総和を広げていくための外部の力(④)も必要ですし、すべての土台となる経済的基盤(⑤)も欠かせません。

――具体的な観光戦略の次の一手

地域やゲスト、スタッフ同士など、すべてにおいて「関係性」というキーワードが重要になると考えています。より長い日数滞在するほど関係性が生まれ、体験も深くなっていく。そのために、まず重要なのは食の多様性です。3泊すれば少なくとも9回ご飯を食べるわけで、島全体でその食体験をつくっていきたい。

加えて、室礼(しつらい:空間としての礼節などを指す)としての空間づくり。客室だけでなく、ホテルの建物全体、また島全体においてどう共通感を持って空間を整えていけるかを考えることも重要です。

さらに、旅の動線を再構築すること。コミュニティホストという仕組みをつくり、地域の方々が旅人を案内することで偶発性が生まれ、唯一無二の旅の思い出につながるのだと思います。

最後が縁側的な場づくり。港で運営している商店やレストランが旅人を迎え入れるための場所から、たくさんの人たちが混ざりあうような場所にしていきたいですし、島のあらゆる場所でこうした縁側的な場を増やしていくことを目指しています。

――海士町全体における株式会社海士の役割

海士町が令和7年に策定した「第3期海士町創生総合戦略」は役場の皆さんが中心となって地域と関わり合いながら緻密につくられたものであり、町全体が向かう方向性を示してくれた素晴らしい戦略だと思います。株式会社海士としても、これに沿って島全体に対してできることを模索してきました。

具体的には、これから5年かけて年間観光消費額10億円へ倍増しようという計画があり、この分母が増えることで、里山の保全や教育、人材雇用といった分野にも投資が増えていくはずです。Entôなどでの過去の実績も踏まえて、株式会社海士としては、この目標額のうち7割を担っていきたいと考えています。

――未来に向けて、必要なちから

島全体において人々の流動性が高いということが特徴でもあり、Entôの立ち上げから組織としてもある程度の流動性を見据えて経営をしてきました。一方で、組織に定着し、育っていくことでより責任感を持った仕事に取り組めるなど、ある分野におけるエキスパートになっていくような人材の育成にも力を入れ始めており、少しずつ芽が出てきたという手応えもあります。

ただ、これから大きくフェーズが変わっていくタイミングでもあり、今までつくれなかった“高さ”や視野を持った人材がますます必要だと感じます。事業承継といった難しい課題を解決しながらも、推進力とリスペクトをもってつねに上を目指していくような能力も必要です。

いずれは海士町での経験をもとに他のジオパークにも挑戦を広げていきたいと考えているので、ジオツーリズムといった分野に関心があり、コミットしたいという方がいたら、ぜひ株式会社海士へ来ていただきたいなと思います。

青山敦士:株式会社海士代表

北海道出身。2007年島根県隠岐諸島にある海士町観光協会に入社。2013年株式会社島ファクトリーを分社化、旅行業・リネンサプライ業を運営。 2017年より株式会社海士の代表就任。2021年泊まれるジオパークの拠点施設「Entô」を開業。

取材 / 執筆:角田貴広
撮影:樗木新

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