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空き家をお惣菜屋に。娘が選びたくなる島になるように「あったらいいな」を形にしていく

【連載】「ないものはない」という生き方 vol.06

篠原絢子

2026.10.25

Interview

『ないものはない』を掲げた島根の離島・海士町。人口約2300人という小さな島ながら、ここには『ないならつくればいい』という、このキャッチコピーを体現したかのような個性豊かな人々がたくさん暮らしています。この連載では、そんな自分だけの暮らし、あるいは仕事をみずからつくり、暮らしている人々を随時ご紹介。今回登場するのは、日本での幼稚園教諭、シンガポールでの勤務を経て、2019年に夫婦で海士町へ移住した篠原絢子さん。島の観光の仕事に携わりながら、お惣菜屋さん「うちのごはん」や「ワインの小部屋 Amigo」など、島の暮らしの「あったらいいな」を次々と形にしています。

「全然知らないところに行きたい」から始まった旅

ーーまず、海士町に来るまでの経緯を教えてください。

もともとは横浜で幼稚園の先生を4年やっていました。でも、あるとき「私のことを知っている人がいない場所でがんばってみたい」という気持ちが強くなって。最初に向かったのはシンガポールでした。現地でも幼稚園の先生として、3年契約で働いていました。

 ーー海外だったんですね。そこからどうして海士町に?

夫とは日本とシンガポールで遠距離だったこともあって、結局2年で帰国しました。帰ってきてからも、関東ではない別の場所に行きたいという思いはずっとあって。

そんなときに、夫が海士町での仕事を見つけてきたんです。夫も「資本主義のなかで競争するのではなく、戦わない稼ぎ方をしている会社で働きたい」と考えていたので、会社を変えて一緒に島へ来ました。結婚して1年が経った、2019年4月のことです。

ーー移住した当初は、どんなお仕事をされていたんですか?

観光協会の仕事をしながら、個人事業主としてオンラインのベビーシッターを週1回ほどやっていました。

育休中の「何もしない時間」から生まれたお惣菜屋さん

ーー「うちのごはん」はどのように始まったのでしょうか。

きっかけは育休中です。子育て支援センターに週2、3回通っていて、そこで同じ時間を過ごしていたママ友の二人と「この時間をビジネスにできないか」という話になったんです。多いときは週5日くらい集まって、議事録を書きながら「これをビジネスにするには?」と本気で考えました。そのなかで出てきたのが、お惣菜でした。

 ーー育休中だからこそ、考える時間があったと。

そうなんです。社会に出てから、はじめて「時間がある」という状態になって。何もしないというのが、すごく不思議な期間でした。

 ーーそこからすぐにお店を?

最初は講習を受けて、キッチンカーやテントでの出店から始めました。夏のレインボービーチなど、いろんな場所に出て、1年で30回くらい。そうやって試行錯誤を重ねていきました。

 ーー実店舗を構えることになったのは?

2023年の12月ごろ、島の大家さんが「この家どう?」と紹介してくれたんです。その場で業者さんに電話して見積もりを取るくらい、急に話が進みました(笑)。10年ほど空き家で、シャワーもなく、トイレも汲み取り式。ちょうど補助金の申請締め切りが2週間後に迫っていたので、急いで見積もりを揃えて申請して。無事に通って工事が始まり、2024年の7月29日にオープンしました。

ーー実際にお店を開いてみて、どんな方が来てくれましたか?

開業当初は、自分たちと同じような子育て世帯に向けたお店になるのかなと思っていたんです。でも、スタートしてみると、単身の方や自分の親世代の方がたくさん来てくださって。それがすごくうれしい驚きでした。

「ないものはない」島に、生ハムを

 ーーお店のコンセプトを教えてください。

海士町には「ないものはない」という理念がありますよね。でも実際は、離島だからこそ島の外に買いに行かないと食べられないものもあるんです。だったら「外のものも持ってきていいじゃん」と思っていて。たとえば生ハムを仕入れたり。島の人だって、たまには生ハムが食べたいじゃないですか(笑)。都市と比べて少ない暮らしの選択肢を、少しでも増やしたいという思いでやっています。

ーー料理へのこだわりは?

全部手づくりです。だしを取ったり、じっくり煮込んだり、5キロの里芋の皮を剥いたり。本当に手間暇をかけています。前日に仕込んで、当日の朝に調理したものを並べています。今は島留学の子も含めて、調理経験のある子たちにも手伝ってもらっています。


ーーお店では、ワインも扱っているそうですね。

海士町産ワインのお手伝いがきっかけで、全国のワインのつくり手さんとイベントをする機会がありました。そのご縁が繋がって、今は酒販免許を取得し、「うちのごはん」に併設するかたちで「ワインの小部屋 Amigo」としてワインを販売しています。

ワインにあまり馴染みがなくても楽しんでいただけるよう、テイスティングイベントなども開催しています。最初は「オステリア・アミーゴ」という、ワインのお披露目パーティーでした。そこから、飲みながら何かをするワークショップへと進化していって。本当はワインを飲みながら歌うイベントをしたかったんですけど、恥ずかしさが勝っちゃうかもなと思って、絵を描くイベントにしました(笑)。

飲んで、食べて、絵を描く。みんな集中して、1枚の絵に向き合っているんです。次はアクセサリーづくりやハーバリウムもやる予定です。

「やりたい」に「やろうよ」と返す理由

 ーー最近はパンのプロジェクトも始まったそうですね。

そうなんです。毎週水曜日は木金の仕込みをしているんですが、せっかくお店にいるのだから、何か販売できるといいのになと思っていて。そんなときに、ずっとパンをやりたいと言っていた方がいたので、「一緒にやろうよ」と声をかけました。

 ーーこれだけ多くのことを、どうやってバランスを取っているんですか?

業務委託として受けている仕事と、自分でやっている仕事を分けて、「MUST」と「CAN」を使い分けている感じです。本業は……なんだろう(笑)。いちばん自分の考えが詰まっているのはお惣菜屋さんかな。でも、週5でやれと言われたら、たぶんしんどいです。

 ーーそれでも続けられている原動力は何でしょうか。

娘が将来、海士町を選ぶかどうかは、今ここにいる若い人たちが楽しいかどうかで決まると思っているんです。だから、「やりたい」と言ってくれる人には「やろうよ」って応援したい。娘には、いろんな選択肢から自分の生き方を選べる島であってほしいし、そのためには、今この島が楽しい場所であることがいちばん大事だと思っています。

篠原絢子:「うちのごはん」店主/「ワインの小部屋 Amigo」主宰

埼玉県出身。横浜で幼稚園教諭として4年勤務後、シンガポールの幼稚園で2年間勤務。2019年4月、夫婦で島根県海士町へ移住。観光協会の業務を受託し、島の観光業に携わる。育休中の仲間との対話をきっかけにお惣菜の露店での出店を始め、2024年に「惣菜屋 うちのごはん」をオープン。ワインの販売・イベント、パンのプロジェクトなど、島の暮らしの選択肢を広げる活動を続けている。島根県海士町在住8年目。

取材 / 執筆:飯田萌希
編集:角田貴広
撮影:樗木新

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